会長あいさつ
「同じ列車に乗って」
本学術集会のポスターをご覧いただけましたでしょうか。
そこに描かれているのは、愛媛県が誇る絶景の駅——下灘駅です。予讃線の小さなホームのすぐ向こうに、伊予灘の青い海が広がるその風景は、「海に一番近い駅」として多くの人々に愛されてきました。ここ松山の地で開催する本学術集会のポスターに、この駅を選んだとき、私の中にひとつのイメージが浮かびました。
あの静かなホームで、誰かの旅の続きを、誰かが待っている。
人の一生は、一本のレールの上を走る列車のようなものかもしれません。
生まれた瞬間に出発し、喜びや出会い、時には嵐のような困難を越えながら、それぞれの目的地へと向かって走り続ける——。呼吸器疾患を抱える患者さんにとって、その旅路は決して平坦ではありません。息苦しさや不安、先の見えない焦りが、車窓に広がることもあるでしょう。
病が急性期を迎えるとき、事態は新幹線のような猛スピードで突き進みます。わずかな判断の誤差も許されない緊迫感のなか、運転する側も、乗る側も、その極限の精度に身を委ねるほかありません。しかし、危機の峠を越え、病状が落ち着いて慢性期へと移行するとき、私たちは患者さんとともに、各駅停車の普通列車へと乗り換えます。多少出遅れても、駆け込んでも、次の駅で待っていてくれる——その「融通」の中でこそ、患者さんの日常を、生活を、人生そのものを支える、長い旅が始まります。
その「乗り換え」の場こそが、私たちが最も大切にしなければならない場面のひとつです。
急性期から慢性期へ、病院から地域へ、専門職から専門職へ——駅のホームで手渡しをするように、情報と想いをつなぐこと。その一瞬の連携が、患者さんの旅の質を大きく左右します。どれほど優れた列車も、乗り換えがうまくいかなければ、目的地には辿り着けないのです。
私たち医療者にできることは、ただ列車を走らせることではありません。患者さんの旅路に「同乗し」、特急の緊張を共に乗り越え、普通列車の長い道のりを隣で支え、そして次の列車へと、思いを込めてバトンをつなぐこと。医師・看護師・理学療法士・作業療法士・臨床工学技士・管理栄養士——それぞれが異なる専門性という「窓」から景色を見つめ、その知恵を持ち寄ることで、はじめて患者さんの旅を豊かに支えることができる。それが、私たちの考える多職種連携の姿です。
ところで、四国には新幹線がありません。本州からお越しになる先生方には、瀬戸大橋を渡る特急列車や、フェリーでの船旅など、少し手間のかかる道のりをお願いすることになります。新幹線の便利さや快適さには及ばないかもしれません。
しかし——新幹線の車窓よりも、普通列車の車窓のほうが楽しくはないでしょうか。速すぎる景色は、気づけば通り過ぎてしまう。ゆっくり走る列車だからこそ、瀬戸内の島々の輪郭も、海の色の移ろいも、心にしっかりと刻まれます。旅もまた、時間とお金の余裕さえあれば、新幹線がなくとも、きっと同じように——いや、もしかしたらそれ以上に——豊かなものになるはずです。
これは、私たちが向き合う地域医療の現場にも通じることだと思います。潤沢なリソースや最新の設備がすべて揃った環境ばかりではない。それでも、その中で知恵を出し合い、連携を深め、できることを丁寧に積み重ねていく——。新幹線がなければないなりに、旅を豊かにする工夫がある。それこそが、地域医療における多職種連携の本質ではないでしょうか。
下灘駅のホームに立つと、遠くまで続く線路の先に、海と空が溶け合う景色が広がります。患者さんの旅もまた、その先にどんな景色が待っているかはわかりません。だからこそ、私たちは寄り添い続けなければならないと、あの風景は静かに語りかけてくるようです。
そして幸いなことに、本学術集会の開催時期は、下灘駅のホームから夕日が最も美しく眺められる季節と重なっています。学術集会にご参加いただいた折には、ぜひ足を延ばしていただき、伊予灘に沈む夕日を、あのホームからご覧いただけますと幸いです。海と空が茜色に染まるひとときが、きっと明日からの診療への、新たな力となることと信じております。
第12回 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 中国・四国支部学術集会は、その理念のもとに開催いたします。職種の垣根を越えた活発な議論と交流を通じて、私たちがともに学び、成長し、患者さんと歩む力を磨く場となりますよう、心を込めて準備を進めてまいります。
愛媛・松山の地で、皆さまとお目にかかれますことを、心よりお待ち申し上げております。
学会長 勝田 知也
